こんにちは。今回は 「TINHIFI T5s」です。マニア人気の高い中国のイヤホンブランド「TINHIFI」による「T」シリーズの最新モデルです。2021年にリリースされた「T5」のブラッシュアップモデルとして新しいシェルデザイン、新しい振動板を採用した次世代ドライバーなどを投入し、聴きやすく手堅い印象のサウンドに仕上がっています。
■ 製品概要と購入方法について
中華イヤホンの製造メーカーおよびブランドとしてマニアの間でも広く認知されている「TINHIFI」ですが、同社のメインラインともいえる「T」シリーズは各グレードの製品でモデルチェンジや派生モデルのリリースが多い事でも知られます(特に同社の定番である「T2」はこれまでに何度も関連モデルが登場していますね)。今回は「TINHIFI T5s」は、「T」シリーズでも上位に位置する「T5」の新モデルとなります。
→ 過去記事(一覧): TINHIFI(TIN Audio)製イヤホンのレビュー
「TINHIFI T5s」では従来の「T5」とは全く異なる次世代ドライバーの搭載と新たなシェルデザイン、ケーブルの採用で大きくグレードアップしています。
「TINHIFI T5s」のドライバーには次世代の「ウルトラリニア振動板(Next-Gen Ultra-linear Diaphragm)」を採用。3種類のナノ素材を独自のトッピングにより構成しすることで剛性と柔軟性のバランスを高め、さらに特別な音響設計と日本製CCAWボイスコイルを採用し、歪みを徹底的に抑制。よりクリアで正確なサウンド体験をユーザーに提供します。
精密CNC加工された航空グレードのアルミニウム合金のシェルにより軽量化を実現。さらに革新的なトリプルダンピングテクノロジーを採用し、クリアかつ自然でバランスの取れたサウンドを提供。独自のサウンドキャビティ設計は、より広いサウンドステージを作り出し、高周波のディテールを難なく表現して、繊細でクリアなサウンドを実現します。
「TINHIFI T5s」の価格は 129.99ドルです。また国内版は17,890円で4月27日発売予定です。
AliExpress(TINHIFI Official Store): TINHIFI T5s
Amazon.co.jp(TINHIFI Offical): TINHIFI T5s
免責事項:
本レビューではレビューサンプルとして TINHIFI より製品を提供いただきました。機会を提供してくださったことに感謝します。ただし本レビューに対して金銭的やりとりは一切無く、レビュー内容が他の手段で影響されることはありません。以下の記載内容はすべて私自身の感想によるものとなります。
■ パッケージ構成、製品の外観および内容について
「TINHIFI T5s」のパッケージはSF的なアートデザインの化粧カバーで覆われています。同社製品のパッケージアートについては特にコンセプト的な説明がないので毎回よく分からないのですが、まあ雰囲気ということで(^^
「TINHIFI T5s」のパッケージ内容は、イヤホン本体、ケーブル、イヤーピースは黒色タイプとソニー風タイプがそれぞれS/M/Lサイズ、白色のウレタンタイプが1ペア(装着済み)、ステムノズルの交換用メッシュパーツと交換用ピンセット、清掃用ブラシ、レザーケース、説明書および保証書など。付属品の構成は「T5」と同様な感じですね。
「TINHIFI T5s」は「T5」を踏襲し、ほぼ円筒形デザインの従来のTシリーズ都は異なる、いわゆるIEMタイプの形状です。フェイスパネルもシンプルな平面デザインとでTINHIFIらしい質実な印象がより強調されています。
やや大柄の印象だった「T5」に比べ、「TINHIFI T5s」では全体的にシェイプされた形状になりましたね。全体として耳にフィットしやすい形状です。0.78mm 2pinコネクタは「T5」では埋め込みタイプでしたが、「TINHIFI T5s」では中華2pinタイプになっています。
イヤーピースは2種類のシリコン製およびウレタン製が付属し、そのまま使用しても十分な装着製が得られますが、よりフィット感の高いものを組み合わせるのも良いでしょう。
ケーブルも「TINHIFI T5s」ではグレードアップしています。28本の0.06mmのOFC線と54本の0.05mmの銀メッキ銅線による4芯タイプのミックス線でより太さのあるケーブルとなっています。被膜はやや硬めの印象ですがしっかり編み込まれており取り回しは良好です。
■ サウンドインプレッション
「TINHIFI T5s」の音質傾向は中低域寄りの弱ドンシャリで全体としては緩やかなV字を描きつつ、中音域の下の方から低域にかけての厚みが増しており、中高域についてはオリジナルの「T5」のニュートラルさを維持しつつ全体的にはより穏やかに、より聴きやすくまとめた印象です。
TINHIFI(あるいは旧ブランド名の「TIN Audio」)は最初の「T2」以降、どちらかというと中高域に特徴のあるニュートラルサウンドを得意としている印象のブランドでしたが、ラインナップを強化する過程で、主に低価格のグレードを中心に何度か中低域寄りの製品をリリースしています。そのなかで比較的評価が高かったのは「T3 PLUS」ですが、今回の「TINHIFI T5s」はさらに上位の「T5」のグレードアップとして、より上質かつ自然なリスニングサウンドを目指しているように感じます。
「TINHIFI T5s」が採用する新しい振動板はナノ素材らしい微細な解像感を持ちつつ、硬質さや派手さとは無縁で、耳疲れしない自然な音色を持っています。DOC(DLC overcoat)振動板を採用した「T5」とは結構異なる質感ですね。
トラディショナルなV字のサウンドバランスでリスニング的な楽しさを与えてますが、派手すぎず、TINHIFIの質実剛健なデザインのような手堅いサウンドにまとめられています。それでも高出力なアンプやDAPのハイゲインで鳴らすなどある程度駆動力のある上流ではよりメリハリのある傾向となり高域もスッキリしつつエネルギッシュな印象を与えてくれます。
「TINHIFI T5s」はインピーダンス32Ωと一般的な仕様ながら感度が103dB/mWとやや低めに調整されているため、小型のオーディオアダプターなどで再生する場合は情報量の多いバランス接続ケーブルにリケーブルするのも良いと思います。
「TINHIFI T5s」の高域は明瞭かつスッキリした伸びのある音を鳴らします。スッキリしつつも刺さりやすい帯域はコントロールされており歯擦音などはほぼ感じない印象。一般的な再生環境ではより中低域の主張が増すため、相対的に高域は大人しく感じる場合が多いようですが、全体としては穏やかで、ジャズなどのアコースティックな音源をゆったり楽しむ場合はこれはこれで良いかなと思います。ここで、情報量の多い銀メッキ線ケーブルなどでバランス接続する、駆動力のあるアンプ等で鳴らすことでV字方向に存在感を増します。高域が物足りないと感じる場合はリケーブルなどを検討してみるのも良いでしょう。
中音域はボーカル域を中心に存在感があり、「T5」より凹むことは少なく多少前方で定位します。癖の無い自然な印象ながら女性ボーカルはよりしっかりとした主張があります。男性ボーカルは豊かな厚みがあり僅かに温かみがある印象。
演奏との分離も良く解像感も高い印象ですが同時に雰囲気のある音色で、特にアコースティックな音源でのリスニングに相性の良さを感じます。音場は自然な空間表現でV字傾向的なレイヤー感はあまりありませんが、過不足を感じることは無いでしょう。いっぽうで分析的には音像が若干緩く、キレの良さやスピード感などを重視する方には向いていません。この辺は「TINHIFI T5s」が「自然で豊かなサウンド」として意図してチューニングしている要素だと思います。
低域は「T5」より豊かで厚みがあり、全体としては自然なバランスを維持しつつ、「TINHIFI T5s」のほうがよりダイナミクスを感じる音像に仕上げています。ミッドベースは直線的で想像以上にスピード感がありますが、柔らかい印象の音像のため過度にタイトにならず、自然な音色を保っています。重低音は非常に深く量感のある音を鳴らします。十分な解像感を持ちつつ、重量感のある音を鳴らすため全体的に心地よい響きと臨場感をもたらします。それでも低域が必要以上にブーストされる印象は無く、あくまで自然に、癖の無い範囲のサウンドにまとめられている点は好印象です。
■ まとめ
というわけで、「TINHIFI T5s」は少し大きめのアルミニウム合金シェルを採用したミドルグレードのシングルダイナミック仕様、という点は共通ながら、全く新しいドライバーを搭載し、より中低域にシフトしたサウンドに調整されている点が印象的でした。通常の再生環境ではこのチューニングによりやや大人しめのサウンドに感じるのですが、実際は「T5」に比較的近い主張のある中高域および高域を持っており、ケーブルや再生環境を追い込むことでより楽しいV字傾向のトラディショナルなサウンドを楽しめる点も興味深いところです。
大きめの金属シェルながら軽量で装着性もより向上しており、またTINHIFIらしい手堅い音作りで長時間のリスニングも楽しめる、外観通り「なかなか渋い」良イヤホンに仕上がっていると感じました。