Yanyin CARMEN

こんにちは。今回は 「Yanyin CARMEN」です。Sonion製の高性能BAを低域4+中域2+高域2の8基搭載し、さらに高高域にカスタムBAを2基加えた「片側10BA」構成の850ドル級のハイグレードモデルです。多ドラ特有の籠もり感は皆無の明瞭な音像表現で、ボーカル域を中心として質の高い低域が下支えするバランスのよいリスニングサウンドに仕上げられています。

■ 製品概要と購入方法について

マニアの間でちょっと話題となった「CANON」(カノン)および「CANON II」などで知られる「Yanyin」ですが、同社はアンダー1000ドル級のマルチドライバー製品でこれまでに複数の製品をリリースしています。

今回の「Yanyin CARMEN」(カルメン)は、4+2+2のSonion製バランスド・アーマチュア(BA)ドライバーを搭載に加え、2基の超高域用カスタムBAを搭載する、片側10BA構成、850ドル級のミドルハイグレードモデルです。
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Yanyin CARMEN」のドライバー構成は低域用にSonion製の低域用2BAユニットを2基(4BA)、中音域用と高域用にそれぞれ異なるSonion製の2BAユニット(2BA+2BA)、そして高高域用ツィーターにカスタム2BAユニットを搭載し、合計で片側10BAのマルチドライバー構成を採用します。これらのBAユニットを位相同期補正技術を採用して優れた低歪みとバランスの取れた周波数応答を実現。

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本体は医療グレードのレジンを使用したハンドメイドで、フェイスデザインは紫の色合いと星空のテーマで装飾され、オペラ「カルメン」の情熱的な雰囲気を演出します。ケーブルは線材に22AWGの高純度単結晶銅線を140本使用した4芯ケーブルが付属し、購入時にプラグを選択することができます。

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Yanyin CARMEN」の価格は849ドル。アマゾンでは144,280円で販売中です。
※アマゾン価格は発売時の為替レートで設定されているため、レビュー掲載時点ではドル建てのほうが多少低価格で購入できそうですね。
AliExpress(Linsoul Audio Store): Yanyin CARMEN ※セール期間中789.57ドル


Linsoul(linsoul.com): Yanyin CARMEN


Amazon.co.jp(LINSOUL-JP): Yanyin CARMEN


免責事項:
本レビューではレビューサンプルとして Linsoul より製品を提供いただきました。機会を提供してくださったことに感謝します。ただし本レビューに対して金銭的やりとりは一切無く、レビュー内容が他の手段で影響されることはありません。以下の記載内容はすべて私自身の感想によるものとなります。


■ パッケージ構成、製品の外観および内容について

Yanyin CARMEN」のパッケージはかなり凝ったデザインで組み立てられたボックス。ただ豪華にするだけでなく、こういった凝ったデザインでハイグレードモデルとしての差別化を行うのは興味深いですね。
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パッケージ内容は、イヤホン本体、ケーブル、イヤーピース(S/M/Lサイズ)、クリーニングクロス、レザーポーチ、説明書、保証カードなど。
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シェルサイズは一般的なカナル型イヤホンとしては大きめですが、「CANON」など同社製品のほかのモデルと比較してほぼ同様のサイズ感で、10BAという多ドラ構成としては使いやすいサイズ感でまとまっている印象です。
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イヤーピースには「Softears U.C.」と同一の高密着シリコン製が付属しており、金属製のステムノズルはやや太めですが耳にしっかりホールドし安定した装着感と遮音性を確保します。ただ私の場合は付属イヤーピースのSサイズでも少し大きめだったため、代替として「DUNU S&S」イヤーピースのXSサイズを使用しました(最も印象が近かったため)。
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ケーブルは太さのある4新タイプの単結晶銅線ケーブル。今回は4.4mm仕様で届きました。太くちょっと重いケーブルのため気軽に使う感じではないかもですが、取り回しは比較的良好です。


■ サウンドインプレッション

Yanyin CARMENYanyin CARMEN」の音質傾向は適度なメリハリを感じさせつつボーカル域がより近く鳴る印象で結構顕著なW字寄りのバランス。いわゆるハーマンターゲット的なサウンドと比較すると、中低域付近はドンシャリ傾向がより顕著で、4基の低域用Sonion製BAによる粒立ちの良く解像感のある低域が印象的です。1000ドル近いハイグレード製品のなかでは特にボーカル域の主張が強い印象で、より近く明瞭な印象で表現されます。片側10BAという構成ですが、昔の多ドラ構成のイヤホンに多かった特有の籠もり感や不自然な響きは無く、輪郭はハッキリと描写されます。全体として寒色傾向ですがドライすぎず自然な余韻も感じさせます。

なお、ハイグレードイヤホンらしく、上流はかなり選びます。インピーダンス10Ω、感度109dBとスペック的にもハイグレードらしい結構敏感なイヤホン(ミドルグレード以上のDAPでローゲインでちょうど良いくらい)ですが、ノイズ特性の高さ(ホワイトノイズ対策という意味で)に加えて、「出力の大きさ」とは異なる、いわゆる「駆動力」が必要なイヤホンです。左右合計で20基のドライバーを駆動させるために、低ゲインでも安定した電流量を供給する必要があり、これはしっかりしたアンプ回路を持つある程度のグレード以上のDAPやアンプの使用が望ましい環境となります。逆に小型オーディオアダプターやDAPなどで多く使用される低電力・高出力タイプのアンプチップが最も苦手とする部分で(スマホ直挿しなどの場合はさらに顕著)、印象の違いに驚くはずです。

Yanyin CARMENYanyin CARMEN」の高域は全体的なバランスとしてはやや控えめですが、スッキリした伸びのある音を鳴らします。主張のあるほかの音域との比較で相対的にやや後方で定位しますが籠もることは無く、高高域にアクセントがあることで伸びと見通しの良さを感じさせます。なお小型のオーディオアダプターなどではボーカル域がより強調され、高域はさらに控えめになります。特に3.5mmのアンバランス接続の場合はパワーのあるポータブルアンプの併用、または情報量の多い銀メッキ線ケーブル等へのリケーブルが望ましいでしょう。S/Nおよび駆動力の高いフルバランス仕様のDAPまたはアンプとの組み合わせの場合はバランス接続で接続することで分離感や粒立ちがはっきり向上します。

中音域は多少凹むもののボーカル域は逆にハッキリした強めの主張があり、癖のない印象でまとめつつ、バランスとしては分かりやすいW字傾向で再生されます。そのため、ロック、ポップス(特にJ-POP)、アニソンと非常に相性が良く、女性ボーカルおよび男性ボーカルどちらも活き活きと再生します。
Yanyin CARMENまた1音1音の粒立ちの良い音でボーカル域と演奏が分離し明瞭に鳴ります。いっぽうで多ドラ特有のマルチBA的な籠もり感は皆無で、音像は明瞭で輪郭もはっきりしています。アンバランスでも自然かつ明瞭な解像感を得られますが、バランス接続では分かりやすく分離感が向上するため、10BAという構成を活かす意味では高性能な上流を整えたうえでバランス接続を行うことがおすすめです。今回は4.4mm仕様のモデルでのレビューとなりますが、標準ケーブルのバランス接続でもこの傾向はしっかり実感できるため、リケーブル無しでも十分に楽しめそうです。

音場は自然な広さですが、ドンシャリというか顕著なW字傾向による前後のレイヤー感が有り、非常に心地よい臨場感を楽しめます。いわゆるニュートラルサウンドではないため、定位として正確というわけではありませんが、それ故に打ち込み系の音源でも平面的にならず心地よいメリハリのある音場感を楽しめます。

Yanyin CARMEN低域も非常にパワフルで、中音域同様に主張のあるバランスで鳴ります。ドンシャリ的なV字方向の谷があるため中高域とはしっかり分離し籠もることはありませんが、駆動力の低い環境では低域の主張によりほかの音域が多少マスクされることがあるかもしれません。このような場合は上流を変更する、情報量の多いバランスケーブルにリケーブルするなどの対応で改善できるでしょう。4.4mm仕様の場合は標準ケーブルでもしっかりした再生環境と組み合わせることで十分に優れた低域を実感出来ます。
音色としてはSonion製4BAによる情報量の多い音を鳴らします。適度な締まりがあり、スピード感はありますが、キレの良さを強調するタイプではなく、どちらかというとBAらしい小気味よい低音ですね。それでも主張が強くエネルギッシュなため軽く鳴ることは無く、自然かつ心地よい印象です。


■ まとめ

というわけで、「Yanyin CARMEN」は10BA、850ドル・~15万円級というハイグレード仕様のイヤホンですが、この価格帯では一般的な「イヤモニ的なニュートラル系」とは一線を画した、ボーカル域にフォーカスしつつ、解像感のある低域を楽しむことが出来る、かなり個性的なイヤホンでした。
このとこと同価格帯の製品を自分で購入したり他にもレビューを依頼をいただくケースも出てきていますが、構成だけで無く音質的にもかなり違いがあるのが非常に興味深いですね。例えば先日レビューした「Moondrop Dark Saber」(8BA+2DD、799.99ドル)はハーマンターゲットカーブにほぼ完全準拠したバランスで高い質感と癖のない音を鳴らしますし、最近届いた「AFUL Cantor」(14BA、799ドル)はほぼフラットなバランスながら特許技術などによりドライバー間を入念に調整し聴き応えのあるサウンドに仕上げられています。ただ、J-POPやアニソンをボーカル中心に高い質感で楽しみたい、という場合には「Yanyin CARMEN」も結構侮りがたい選択肢のひとつになると感じました。