MOONDROP x Crinacle DUSK

こんにちは。 前回に引き続き今回も個人的に購入したイヤホンを紹介する「棚からレビュー」です。
今回のネタは「MOONDROP x Crinacle DUSK」ですね。Moondropの「Blessing3」をベースに高域用ドライバーをマイクロ平面ドライバーに変更し2DD+2BA+2Planar構成に進化したCrinacle氏コラボモデルです。木目調カーボンファイバー製フェイスプレートも特徴的なアッパーミドル級・日本未発売の高音質イヤホンです。

■ 製品概要と購入方法について

MOONDROP x Crinacle DUSK」は「水月雨(Moondrop)」の2DD+2BA+2Planar構成のハイブリッドモデルです。既存の2DD+4BA構成の「Blessing3」をベースとしたCrinacle氏とのコラボ版で、以前の「Blessing2」に対する「Blessing2:Dusk」のような位置づけになります。ただ「2」の場合はドライバー構成は同じでチューニングのみの変更でしたが、今回の「MOONDROP x Crinacle DUSK」の場合、「Blessing3」では2基の高域用BAを使用していた音域を、新たに2基のマイクロ平面ドライバーに変更することで「2DD+2BA+2Planar」構成の製品となっています。
→ 過去記事(一覧): Moondrop製品のレビュー

MOONDROP x Crinacle DUSK」の外観的な意匠としては、木目調のフェイスパネルは数百本のカーボンファイバー素材を高温高圧で定着成形した軽量かつ高耐久素材を使用し、金属製パネルの「Blessing3」とは全く異なる印象で仕上がっています。
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今回の「MOONDROP x Crinacle DUSK」およびベースとなった「Blessing3」は高域、中音域、低域の3Wayでドライバーを配置し3Dプリントによる高精度シェルと緻密なチューニングにより、最適なチューニングを行っています。さらに「MOONDROP x Crinacle DUSK」では高域用ドライバーに2基のマイクロ平面ドライバーを採用することで、「Blessing3」での2基のBAドライバーと比較してさらに低歪みで、ワイドレンジと高解像度のサウンドを実現しています。
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さらに低域は「Blessing3」同様に、10mmサイズの「HODDDUS」(Horizontally Opposed Dual-Dynamic Drivers Unit System/水平対向型デュアルダイナミックドライバー)を搭載。振動板にペーパードーム&フレキシブルエッジを採用した2基のダイナミックドライバーを対向配置することで2倍の音圧となり、磁気ギャップに磁界が均一化することで伝送効率が向上し非線形歪みを低減させることができます。
これらのドライバーで構成された「MOONDROP x Crinacle DUSK」は製品名称の通り、有名レビュアーのCrinacle氏とのコラボにより厳密なチューニングが実施されています。

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MOONDROP x Crinacle DUSK」は3.5mmのアナログケーブルと、USB Type-CのDSPケーブルの2本のケーブルが付属します。価格は359ドルです。
AliExpress(Moondrop Offical Store): MOONDROP x Crinacle DUSK


免責事項:
本レビューは個人的に製品を購入し掲載している「購入者レビュー」となります。
本レビューに対してそれ以外の金銭的やりとりは一切無く、レビュー内容が他の手段で影響されることはありません。以下の記載内容はすべて私自身の感想によるものとなります。


■ パッケージ構成、製品の外観および内容について

パッケージの雰囲気はいつものMoondropですが、フェイスデザインにあわせて落ち着いたモノトーン仕上げです。ボックスは「Blessing3」同様のミドルグレードらしい手の込んだボックスとなっています。
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パッケージ内容はイヤホン本体、ケーブルは2種類で3.5mmタイプのホワイトのケーブルと、USB Type-CのシルバーのDSPケーブル、航空機用アダプタ、「Spring Tips(清泉)」シリコンイヤーチップ(S/M/Lサイズ)、レザーケース、説明書、保証書。レザーケースは「DARK SABER」と同じブラウンのカラーリングです。
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MOONDROP x Crinacle DUSK」の本体は3Dプリントされたレジン製で、カーボンファイバー製の木目調フェイスプレートが特徴的ですが、ハウジング形状は「Blessing3」を踏襲しています。さらにいうとシェル形状そのものは「Blessing2」時代から継承しているサイズ感となります。
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また内部のドライバー配置も「Blessing3」を踏襲していますが、「MOONDROP x Crinacle DUSK」ではデュアル構成のマイクロ平面ドライバーと中音域用の2BAユニットが並列で配置され、音導管上のダンパー型のフィルターの種類及び配置が異なるのが確認出来ますね。
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付属するケーブルはUSB Type-Cのデジタルケーブルは同社の「MAY (梅)」の付属ケーブルと外観は同様ですが、コネクタ部分に「DUSK-SP」とプリントされており、「MOONDROP x Crinacle DUSK」専用のケーブルとして設定されていることが分かるようになっています。3.5mmのアナログケーブルは「Blessing3」のケーブルとほぼ同じ線材ですが外観上は撚りの少ない使用となっています。
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フェイスプレートについては同様に木目調カーボンファイバーを採用している「DARK SABER」と比較するとカラーリングが若干異なる(「DARK SABER」は白色の模様が入っている)点と、右側パネルに「DUSK」と刻印されているなど微妙な相違点があります。また「Blessing3」同様にフェイス部にベント(空気孔)があるのも特徴ですね。サイズの大きいシェルですが装着性は比較的良好で、さらにイヤーピースも最初から「Spring Tips(清泉)」が同梱されているのも有り難いですね。


■ サウンドインプレッション

MOONDROP x Crinacle DUSKMOONDROP x Crinacle DUSK」の音質傾向は、ニュートラル方向、ハーマンターゲットカーブ寄りの弱ドンシャリ傾向です。
Crinacle氏コラボ製品のチューニングは「H-2019」と呼ばれるタイプのハーマンターゲットカーブとの親和性が高い印象がありますが、なかでも「Blessing2:Dusk」に代わる本命ともいうべき「MOONDROP x Crinacle DUSK」では、より忠実度が高く、フラットに近いバランスながら、ミッドレンジにフォーカスしたU字傾向を感じやすい印象があります。

ちなみに「MOONDROP x Crinacle DUSK」は「Blessing3」をベースとしているとは言え、両者の比較では、高域がマイクロ平面ドライバーに変更された点や、Crinacle氏チューニングにより、特に付属のアナログケーブルの場合、再生環境によっては結構印象が異なります。
また、Moondrop的には付属する2種類のケーブルの中でも、3.5mmのアナログケーブルよりもUSB Type-CのDSPケーブルを「標準」と捉えているらしく、スマートフォンなどにDPSケーブルを直結した場合もある程度は印象の違いがあります。
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ちなみに、このDSPケーブルでUSB接続した場合、Android用の「MOONDROP Link 2.0」アプリによってイコライザ設定なども円滑に行えるようになっています。とはいえ、少なくとも日本からわざわざ「MOONDROP x Crinacle DUSK」を購入しようと言う方は私も含めスマホ直結ではなく相応の再生環境で利用するのでは、と思いますので、基本はリケーブルなどを模索することになりそうです。というわけで本レビューでもDSPケーブルとアプリの組み合わせでの印象は参考程度に捉えています。

MOONDROP x Crinacle DUSK」の高域は、ほぼ「Blessing3」に近いチューニングで、適度な量感を確保しつつ刺激を抑えた自然な音を鳴らします。マイクロ平面ドライバーを採用することでより歪みを抑え、直線的な伸びの良さを解像感の向上を実感させます。再生環境により変化するものの、付属ケーブルではやや穏やですが、リケーブルより鮮やかさや明瞭感が向上します。DSPケーブルの場合、デフォルト設定では適度に温かくより聴きやすい印象になります。

MOONDROP x Crinacle DUSK中音域はフラット方向のニュートラルさを感じさせつつ、ボーカル域を中心に非常に自然な印象で再生されます。付属ケーブルでの印象では「Blessing3」のほうがU字傾向がより強く、とくに女性ボーカルの高音などのアクセントの鮮明さが若干強調されている印象ですが、「MOONDROP x Crinacle DUSK」のほうがより自然で透明な印象を受けます。そのため、アニソンなどのボーカル曲では「Blessing3」のほうがボーカルが前傾し、鮮やかさを感じる可能性があります。
これに対して「MOONDROP x Crinacle DUSK」はさらに原音に忠実で、ボーカルは適切な距離で定位し、音源の違いを正確に描写します。解像感はより高く、演奏は極めて自然に分離します。ケーブルや再生環境を追い込むことで、さらに解像感や立体的な音場感を得ることができますが、同時にケーブル選びによっては意図しないバランスに感じることもあるため、プレーヤーとの組み合わせを含め、リケーブルする種類に加え入念な調整が求められそうです。なおDSPケーブルではウォーム方向にまとめられリスニング的な特性が強化されますが、「MOONDROP x Crinacle DUSK」に求める要素を考慮すると好みは分かれそうです。

MOONDROP x Crinacle DUSK低域は非常にパワフルでパンチ力のある音を鳴らします。重低音を中心に「Blessing3」より底上げが行われており、全体的にV字方向の厚みが強化されています。そのため「HODDDUS」による水平対向の2DDによる深さやエネルギーをより実感出来ます。また解像度は高く分離も良い印象で、中高域同様に原音忠実性という点での質の高さは特筆すべきでしょう。ただそれでもハーマンターゲット的な量感の範囲内ですので、「Blessing3」同様に、同価格帯の競合製品と比較するとリスニング的には多少物足りなく感じる場合があります。


■ まとめ

MOONDROP x Crinacle DUSKというわけで、「MOONDROP x Crinacle DUSK」ですが、個人的には「Blessing3」との外観だけでなく音質的な相違点も実感でき、十分に満足できる製品でした。いっぽうで基本的には「ニュートラル方向のMoondrop製品が大好き」、あるいはCrinacle氏推しのガチ勢向け(汗)という、結構なファンアイテムという印象もありました。
というのも、ベースとなった「Blessing3」はもちろん、同様の4BA+2DDではよく競合製品として挙げられる「THIEAUDIO HYPE 4」や「DUNU DaVinci」、7BA+1DD構成ながら同価格対の「AFUL Perfomar 8」など、「ほぼハーマンターゲット準拠に近いバランスのU字または弱ドンシャリ」という傾向で同価格帯の製品は最近私がレビューしただけでも数多く存在し、さらにどの製品も非常に完成度が高い、という事実があるためです。
これらの製品は、まず音質以外の点で、装着性ではもっともトラディショナルな形状の「HYPE 4」と「Perfomar 8」が優れており、外観では「MOONDROP x Crinacle DUSK」や「Blessing3」はやはりカッコエエですね。そして付属品の充実度も含めたパッケージングでは「DaVinci」は魅力的な製品でしょう。ただ音質傾向については、私のようにとりあえず全部揃えようという変態(笑)は別として、どの製品も良くできていますので、これは好みとしか言いようがないところです。
MOONDROP x Crinacle DUSKまた、今回の「MOONDROP x Crinacle DUSK」以外は国内版がリリースされており、専門店のある主要都市であれば試聴可能なため、あえて試聴できない「MOONDROP x Crinacle DUSK」を選ぶというのが難しい部分もあります。まして前述のように「Moondrop」が「標準」とするDSPケーブルをスマホ直挿しで使う方は非常に少ないと思いますので、Crinacle氏コラボらしい「質の高い原音忠実性」を最大の特徴と捉えて、上流を追い込んで最適解を探す、というやはり結構なマニア向けアイテム、という位置づけが妥当な気がします。
私は「Moondrop大好き」勢のひとりとして購入しましたが、貴方があまりこれらの条件に当てはまらず、このクラスの製品を検討している場合は、まずは「HYPE 4」と「DaVinci」を試聴してみてから、というのも良いと思いますよ(^^)。