
こんにちは。今回は 「NICEHCK Rockies」です。お馴染みNICEHCKブランドの新たなフラグシップモデルですね。構成はSonion製の2EST、Knowles製の2BA、およびPU+ベリリウムコート複合振動板ダイナミックドライバーによる、2EST+2DD+1DD構成で500ドル級の設定です。圧倒的なニュートラル感と同時にNICEHCKらしいスッキリとした音作りもあり、ハイグレード製品らしい質の高いサウンドを実現しています。
■ 製品概要と購入方法について
中国のイヤホンセラー「HCK Earphones」は私のブログでもお馴染みの老舗中華イヤホンセラーで、多くのマニアに絶大な支持を受けていることでも知られています。そのオリジナルブランドの「NICEHCK」もまた多くのマニアに寄り添った「他とはちょっと違う製品」が特徴でしたがここ数年で高音質なイヤホンブランドとして評価および知名度も一気に向上しています。
同社のフラグシップシリーズとして、シングルダイナクック構成の「HIMALAYA」に次ぐ第2弾として登場したのが今回の「NICEHCK Rockies」です。Sonion製EST(静電)デュアルドライバーユニット+Knowles製デュアルBAユニット+10mm複合振動板ダイナミックドライバーによる2EST+2BA+1DD構成のハイブリッド仕様モデルです。


低域用にCNC加工されたニッケルメッキ真鍮製ハウジングに収容されたベリリウムドーム+PUエッジ複合振動板デュアル磁気回路ダイナミックドライバーを搭載し、力強く安定した低音域を実現。ミッドレンジにはデュアル構成のKnowles製バランスド・アーマチュア(BA)ドライバーを搭載し、低歪みの高調波と優れた中高音域応答を実現。そしてSonion製のデュアルEST(静電)ドライバーユニットにより優れた高音行きの伸びと高速な過渡応答、滑らかなディテールを実現します。


フェイスプレートには天然石のピーターサイト(Pietersite)を使用。独特な光沢模様で星雲のような幻想的な表情を与えます。
ケーブルにはハイグレードな古河電工製銅銀メッキ線と7N 単結晶銅線のミックス線ケーブルを使用。0.78mm 2pin仕様で 3.5mmシングルエンドと4.4mmバランスの2-in-1交換式プラグを採用しています。
イヤーピースには低音域が豊かな標準(ブルー)タイプ、バランスの取れた「NICEHCK 07」、広がりがありはっきりとした階層感がある「NICEHCK C04」の各サイズが付属します。


「NICEHCK Rockies」の価格は499ドル。
現在「The Hangout by Crinacle」で先行販売中です。
The Hangout by Crinacle(hangout.audio): NICEHCK Rockies
8月13日(日本時間)よりAliExpressで正式販売が開始されました。
AliExpress(NiceHCK Audio Store): NICEHCK Rockies
免責事項:
本レビューではレビューサンプルとして HCK Earphones より製品を提供いただきました。機会を提供してくださったことに感謝します。ただし本レビューに対して金銭的やりとりは一切無く、レビュー内容が他の手段で影響されることはありません。以下の記載内容はすべて私自身の感想によるものとなります。
■ パッケージ構成、製品の外観および内容について
「NICEHCK Rockies」のパッケージは従来とは明らかに質感の異なる大きめのボックス。シンプルながら高級感のあるまとめかたです。


観音開きの内箱を開けると存在感のあるケーブルと、ケーブルとカラーを合せた質の高いケースが収納されています。


パッケージ内容は、イヤホン本体およびケーブル、交換用プラグ、ケーブルタイ(マグネット式)、クリーニングブラシ、イヤーピース(「標準タイプ」「NICEHCK 07」「NICEHCK C03」がそれぞれS/M/Lサイズ)、レザーケース、説明書。


本体は比較的コンパクトなサイズのレジン製でピアノブラックの光沢感が美しい仕上がりです。ステムノズルは金属製、フェイスプレートは天然石のパネルが埋め込まれ表面をレジンでコーティングされています。フェイスプレートに使用されている天然石はピーターサイト、和名は角閃石(かくせんせき)と呼ばれる材質で、青色から茶褐色の色彩で他の成分と混ざってマーブル調に渦を巻いている中で神秘的な輝きをもっています。個体ごとに異なる雰囲気を楽しむことができますね。


ステムノズルはやや太めで、メッシュ部分も貼り付けでは無くしっかり加工されているのが分かります。また本体にはシリアルナンバーがプリントされているようです。
イヤーピースは青い軸の通常タイプのほか、定番の「NICEHCK 07」(「AET07」の互換タイプ)と、液体シリコンの「NICEHCK C04」が各サイズ付属。円形のレザーケースも大きめで、付属品をしっかり収納できます。


ケーブルは古河銅銀メッキ線と7N単結晶銅線のミックス線を使用した4芯撚り線タイプでダークブラウンの被膜で覆われた太めの線材を使用しています。被膜は適度な弾力があり、しっかり編み込まれていますので太さはありますが取り回しはまずまずです。交換式プラグは挿入部をネジ式で交換するタイプでより耐久性と導電性の高いパーツが使用されていますね。
■ サウンドインプレッション
「NICEHCK Rockies」の音質傾向はニュートラルで癖の無い印象でバランスは自然なカーブを描くU字または若干のW字傾向。全体的に明るめでやや寒色寄りの印象で、高域は直線的な伸びがありEST(静電)ドライバーらしさをある程度感じさせる印象。とはいえ2ESTタイプのハイブリッドで多少見られる「いかにも」感や人工的な印象は少なく(4EST機には及ばないものの)まとまりは良い印象。低域も心地よいインパクトがあり自然な量感ながらリスニング的な楽しさもあるイヤホンです。
ちなみに、先行販売サイトを見ても分かるとおり、「NICEHCK Rockies」はNICEHCKの製品としてはわりと珍しく(^^;)、今回は「Crinacle氏推しのモデル」となっています。そのため(チューニングに参加しているわけでは無さそうですが)多くのCrinacle氏コラボ製品にも共通する(ある意味癖が無さ過ぎるような)印象もあり、特にボーカル域や低域のリスニング性という点で(もう少し色が合った方が良いなど)多少好みが分かれる可能性もあるかもしれません。いっぽうで「NICEHCK Rockies」では(それらの製品と)比較して若干寒色寄りで、印象としてスッキリとしたメリハリ感を多少持っているなど「HIMALAYA」にも通じるHCK的なチューニングを加えているようで、マニア的には微妙なところで色々感じる楽しさもあります。
「NICEHCK Rockies」の高域は全体のバランスとしてはそこまで強調しない印象で鳴りますが、ESTらしい直線的な伸びやかで非常に優れた解像感を持っています。例えば上位モデルに4EST機を持っているようなブランドだと2EST機はやや派手目にESTぽさを出し人工的な印象になるケースもあるのですが、「NICEHCK Rockies」の高域は「らしさ」はあるものの、適度な主張で調整されていることで明るすぎず自然な印象にまとまっています。ハイハット等のシンバル音も自然でストリングスやブラスの高域も綺麗に出ています。再生環境も多少影響しますが、十分にパワフルかつクリーンであればより分析的なリスニングでもディテールを捉えることも出来ると思います。
中音域は癖の無いニュートラルな印象ながら、中高域付近に若干のアクセントがありスッキリした印象で再生されます。そのため女性ボーカルやピアノの高音などは伸びやかさがあります。またいかにもハーマンターゲット的な音という側面もあり、非常にニュートラルで原音忠実性が高く、分析的なリスニングにも最適なサウンドという印象もあります。そのため、中低域付近は特に癖が無く、最近の(例えばHBB氏コラボ製品のように)中低域から低域にかけて若干持ち上げたサウンドと比較すると、男性ボーカルなどは厚みが控えめで、多少あっさりした印象に感じる場合もあります。この点は好みが分かれる要素かもしれません。それこそCrinacle氏の影響を感じる製品、具体的にはMoondropの同氏コラボモデルやTruthearあたりが好みの方であれば「NICEHCK Rockies」も好感するのでは、と思います。
印象としては寒色寄りで、「NICEHCK Rockies」とよく比較される(らしい)「Hisenior Mega5-EST」の少し温かみを感じる印象よりスッキリしたサウンドに調整されています。「HIMALAYA」などとも共通する方向性があり、NICEHCKとしての音作りという感じでしょうか。そういった意味では音場の広さも特徴的で、優れた解像感とともに演奏との分離も完璧に近く、特にアコースティックな音源では心地よいライブ感を楽しむことができます。この点でモニター的な音作りとは一線を画しており、ハーマン準拠だが没入感のあるリスニングサウンド、というキャラクターを獲得しています。低域は10mm ベリリウムドーム+PUエッジ複合振動板デュアル磁気回路ダイナミックドライバーによりキレが良く豊かさのある低域を鳴らします。量的にはニュートラルバランスのため多くはありませんが、より濃密さのある音色で豊かな音場感を下支えしつつ、キレの良い締まりのある音で再生されます。
重低音も深く沈みつつベリリウムらしい解像感とキレの良さがあり、音数の多い曲でも見通しの良さを感じる印象です。ただし、最近は同クラスの製品でも例えば対向2DD仕様にするなど低域の強化するアプローチが好評を得ることが多く(前述の「Mega5-EST」にも「Bass+」モデルがありますね)、それらの製品のパワー系の低域と比べると量、質ともに多少あっさり目に感じます。個人的には広い音場感で立体的に音を追うことができる楽しさがあり、ニュートラル系としてはこういったアプローチも結構好きな印象ではありますね。
■ まとめ
というわけで、NICEHCKから満を持してリリースされた感もある「NICEHCK Rockies」ですが、ニュートラルで非常にバランスが良く、優れた解像感と分離による明瞭な印象ながら広く立体的な音場で1音1音を深掘りしながら堪能するような没入感も味わえる楽しいイヤホンだと感じました。なにしろCrinacle氏の推しを得てる時点で一定水準をクリアしているのは間違いないだろうとおもいますが、同時にNICEHCKとしてのやや寒色系でスッキリとした印象もありますし、数多くのSonion製EST搭載機、特に2ESTタイプのなかでも結構自然な印象の高域もあり、500ドル程度の価格設定に見合う製品に仕上がっていると感じます。今後販売サイトも拡大し、国内でも取扱いが行われることで購入しやすく、また試聴の機会も増えると思いますので、興味のある方はぜひとも確認いただければと思います。








