TempoTec Variations V1

こんにちは。今回は 「TempoTec Variations V1」です。非常にコンパクトながらバランス接続に対応した高性能DAP(デジタルオーディオプレーヤー)です。DACにデュアル仕様の「CS43131」を搭載し、ドングル型アダプター並みのサイズ感で優れたノイズ性能と高出力を実現。さらにプレーヤー機能に加え、DAC機能、ワイヤレス(Wi-FiおよびBluetooth)など非常に多くの機能をまとめて搭載しています。

■ 製品概要と購入方法について

「TempoTec」はエントリーからミドルグレードのDAP(デジタルオーディオプレーヤー)製品を展開している老舗ブランドのひとつ。今回の「TempoTec Variations V1」は「超小型」「低価格」「多機能」を実現した最新エントリーモデルです。ローカル再生に加えて、「TIDAL」「Qobuz」などのオンライン再生、AirPlay/DLNA/HiByLinkに対応し、さらにUSB DACモード、Bluetoothワイヤレスアンプとしても機能する「全部入り」設計が特徴です。
TempoTec Variations V1TempoTec Variations V1
TempoTec Variations V1」はDACチップはCirrus Logic製「CS43131」をデュアル構成で搭載。PCM 最大2TBに対応したmicroSD(TF)スロットを搭載し、各フォーマットにて384kHz/32bit/DSD256のハイレゾ・ネイティブ再生に対応します。
インターフェースは上面に3.5mm(ラインアウト切替可)と4.4mmバランス出力、下面にUSB-C(充電/データ/USBオーディオ入出力)を装備します。画面は2インチ・240×320ピクセルのタッチスクリーンを搭載します(前面は全面ガラスパネル)。

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また「TempoTec Variations V1」のOSは独自仕様でHiBy系OSを搭載。DAPとしてのローカル再生のほか、スマホおよびPC向けのUSB-DAC、さらにBluetooth ワイヤレスアンプ(受信/送信の双方向)のモードを搭載します。BluetoothではLDACコーデック(最大96kHz)に対応。さらにWi-Fi機能を搭載し、AirPlay/DLNA/HiByLinkの各種連携、TIDAL/Qobuzのネイティブ再生に対応します。またゲイン切替、デジタルフィルタに加え、10バンドEQ、HiBy MSEBにも対応します。そして1400mAhのバッテリーを搭載し、最大約10時間前後の再生が可能です。
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TempoTec Variations V1」の価格は89ドル、バッククリップ付きが96ドル(tempotec.net)、
アマゾンではバッククリップ付きモデルが13,486円で購入可能です。

免責事項:
本レビューではレビューサンプルとして TempoTec より製品を提供いただきました。機会を提供してくださったことに感謝します。ただし本レビューに対して金銭的やりとりは一切無く、レビュー内容が他の手段で影響されることはありません。以下の記載内容はすべて私自身の感想によるものとなります。


■ パッケージ構成、製品の外観および内容について

今回は「TempoTec Variations V1」およびバッククリップをセットで届きました。本体はブラックの本体デザインをイメージした意匠のパッケージ。
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パッケージ内容は本体、保護フィルム(1枚は本体貼付け済、予備を1枚)、OTGケーブル(Type-C)、充電/データ転送用USBケーブル(Type-AからType-C)、簡易ガイド、説明書、保証カードなど。
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本体は87.2×41.8×13.75mmのコンパクト設計。高性能タイプのドングル型オーディオアダプターとほぼ変わらない大きさながらデュアルDAC搭載、バランス接続対応で2インチのタッチスクリーンIPSパネルを備えたハイレゾDAPというのはなかなかの驚きですね。
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本体の右側側面には電源ボタンおよび再生/曲送り/曲戻しの各ボタン、左側側面には音量の+/-とmicroSDカードスロットを備えており直感的な操作が可能なデザインになっています。
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タッチスクリーンを備えた前面はガラスパネルで覆われておりシンプルながら高い質感をもっています。背面のデザインもクールですね。
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アマゾンでのセットではオプションのプラスチック製のバッククリップが付属します。「TempoTec Variations V1」を屋外で携行する上では便利なアイテムです。ほかにもオプションではレザーケースなどもあります。


■ ミュージックプレーヤー機能、HiByLink機能について

TempoTec Variations V1」は初回の電源投入で言語選択の画面が出るので「日本語」を選び起動します。HiBy系の独自OSを搭載することで初期設定後の起動時間は5秒以内でAndroid系DAPと比べて非常に軽快に利用できます。また連続再生時間は最大10時間程度ですが、再生していない時はこまめにシャットダウンすることで体感の利用時間はより長く感じると思います。なお、今回届いた製品は掲載時最新の「V1.1」のファームウェアを搭載しています。様々な機能を実際に使った印象としては結構安定して利用できたと思います。

画面上の「ミュージック」「ストリームメディア」「Phone DAC」「PC DAC」「BT DAC」「設定」アイコンは6種類で上下にスクロールして選択できます。「設定」は「システム設定」と「オーディオ設定」のサブメニューに推移します。同じHiBy系でもこのメニュー配置はメーカーによって独自にデザインされているようですね。
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「システム設定」画面では「言語設定」や「無線設定」(Wi-Fi)、「Bluetooth設定」など各種設定を行うことができます。好みでバックライト点灯時間の調整などを行います。また「ショートカットメニュー」設定では後述する「再生設定」から頻繁に使う項目をスワイプダウンで表示させる設定を変更できます。
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「オーディオ設定」では「ゲイン(ハイゲイン設定)」や「出力選択(ライン出力切替え)」、EQ設定、MSEBなどのチューニング設定、他にもDSDモードなど各種設定を行うことができます。

トップメニューに戻り、DAPとしての音楽再生(ローカル再生)は「ミュージック」画面で行います。音楽データをコピーしたmicroSDXCカードを挿入し、初回は「音楽をスキャン」を促されますので実施すれば準備完了です。手動で行う場合は「ミュージック」画面を下方向にスクロールし「ミュージック設定」で「音楽をスキャン」の項目を選択できます。
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非常に小さい画面でのタッチスクリーンですので、指の太い方はちょっと誤操作が心配になる場合もありますがレスポンスはまずまず。DAPとしての機能はひととおり網羅しており操作で迷うことはないでしょう。また音楽再生中のゲイン設定等はスワイプダウンによるクイックメニューで変更が可能です。

さらに、「TempoTec Variations V1」はHiBy系のOSを採用しているため、同OS特徴のひとつである「HybyLink」にも対応。BluetoothまたはWi-Fi接続で連携し、スマートフォンにインストールした「HiBy Music」アプリから「TempoTec Variations V1」のDAP機能をリモート操作することが可能です。前述の「ミュージック設定(再生設定)」画面にアクセスし「HiByLink」のスイッチを「ON」にします。
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そのうえで、スマートフォン側(Android/iPhone共通)で「HiBy Music」アプリをインストールし、「HiByLink」を有効にすることでWi-FiまたはBluetoothでペアリング可能になります。ペアリング後はスマートフォン側で「TempoTec Variations V1」のローカル再生を遠隔操作することが可能になります。


■ USB-DAC機能について

また「TempoTec Variations V1」はミュージックプレーヤーとしての側面に併せて、コンパクトなUSB-DACとしての利用頻度も多いと思われます。多くのドングル型オーディオアダプター製品はバッテリーを内蔵せず、接続するスマートフォンなどから電力供給を受けるため、出力面や再生時間、スマホ側のバッテリーの「持ち」が気になる点がネックとなります。しかし、同様のサイズ感ながら、もともとがプレーヤーで長時間バッテリーを持つ「TempoTec Variations V1」の場合は、その辺を安心して利用できるのが心強いですね。
また「TempoTec Variations V1」は他社のHiBy系OSを搭載するDAP製品と比較してもUSB-DAC利用を明確に想定したインターフェース設計となっており、トップメニューに「Phone DAC」「PC DAC」とメニュー化されています。そのため切替のためにメニュー画面を探す必要なく、直感的に利用することができます。
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「Phone DAC」「PC DAC」モードでは現在のステータスを表示する画面が表示され、サンプリングレート、EQおよびモード、DACモード、ゲイン設定などがディスプレイされます。このステータス画面だけでも「TempoTec Variations V1」が魅力的に感じる方も結構いらっしゃるのでは、と思うほどクールな印象です。

TempoTec Variations V1なお「Phone DAC」ではOTGケーブルでiPhone/Androidなどのスマートフォンと接続可能、「PC DAC」ではOTGまたはUSBケーブルでPC/Macなどと接続可能で、さらにPC側から給電も行われます(「Phone DAC」モードでは給電は行いません)。DACモードは「DAC」「DAC&AMP」「PRMDAC」が選択でき、「PRMDAC」ではゲインは自動で「High」になります。
ドライバーおよびファームウェアはTempoTecサイトの「Driver&Firmware Download」ページにありますがレビュー掲載時点では「TempoTec Variations V1」用についてはファームウェアのみで、Windows用ドライバーの更新はありませんでした。今後掲載される可能性はありますね。


■ ワイヤレス機能(Bluetooth)について

TempoTec Variations V1」はいわゆる「ワイヤレスポータブルアンプ」としての利用も可能です。Bluetoothはバージョン5.1に対応し、プレーヤー、レシーバーの双方の機能を持ちます。プレーヤーとしての使用では、「設定」メニューの「Bluetooth設定」を選択し有効にします。そのうえで「デバイス検索」でワイヤレスイヤホンやスピーカーなどとペアリングを行い使用します。
TempoTec Variations V1コーデックではLDACが選択可能で(AACおよびapt-Xにも対応)非常に安定した接続性で楽しむことができます(ほかにUATも各レートで対応します)。
そしてレシーバーはトップ画面の「BT DAC」を選択し、スマートフォンなどの再生デバイスから接続します。こちらも「LDAC」コーデックに対応したワイヤレスアンプとして利用できます。単独のDAPとしての使い方をメインとしつつもストリーミングなどではスマートフォンからも再生したい、という用途で活用できます。こちらもUSB-DAC同様に、再生中は「コーデック」表示及び「EQモード」「ゲインモード」「Output Mode」の各ステータスが表示され、各モードはタッチスクリーンで変更が可能です。


■ ワイヤレス機能(Wi-Fi)、ストリーミングサービス対応について

Wi-Fi関連は2.4GHz帯に対応し、「無線設定」でWi-Fiを有効にしてSSIDを選択(または手動で登録)することで利用できます。各機能はトップメニューの「ストリームメディア」のなかに「AirPlay」「DNLA」「TIDAL」「Qubuz」の各アイコンがあります。「AirPlay」「DNLA」はWi-Fi機能ではお馴染みで特にiPhone/iPadを使用しているユーザーであれば「AirPlay」は利用頻度は多いため便利な機能ですね。
TempoTec Variations V1ちなみにAirPlayに関する既知の情報ですが、iPhoneユーザーであればiPhone側でテザリング(ネットワーク共有)を有効にして「TempoTec Variations V1」を共有したSSIDで接続し「AirPlay」を有効にすることで、Wi-Fi環境がないモバイル利用でも共有しているiPhoneからAirPlay経由で「TempoTec Variations V1」にワイヤレス再生が可能です。AirPlayの仕様でサンプリングレートは44.1kHz/48kHzまでの対応ですが、iPhoneとプレーヤー側のWi-Fi通信ではALAC(Apple Lossless Audio Codec)によるロスレス転送を行うため、Bluetooth接続より確実に高音質となります。案外知らない方も多いようですので、iPhone/iPadユーザーであれば積極的に活用したい機能ですね。

ストリーミングサービスでは「TIDAL」はは日本国内ではサービス未提供ですが、「Qobuz」については日本版のストリーミングサービスが開始していますので、実際に登録してみると、日本版のアカウントで問題なくログインし利用することができました。
TempoTec Variations V1標準の画面では「New Albums」と「New Playlists」の項目があり、画面上部の虫眼鏡アイコンで検索機能、フォルダアイコンで「私のコレクション」画面が表示され、アカウントに追加した曲や自身で作成したプレイリストを選択して再生することが可能です。あらかじめプレイリストを作成しておくと便利ですね。もちろん24bit/192kHz FLACなどのハイレゾ音源のストリーミング再生も問題なく利用できました。ただしストリーミング機能はWi-Fi経由のオンライン再生のみで、ダウンロードしてのオフライン再生などは対応していません。そのため屋外利用の場合はテザリングしたスマートフォンやモバイルWi-Fiルーターなどを併用する必要があります。


■ サウンドインプレッション

TempoTec Variations V1ということで、コンパクトながら非常に多機能を実装した「TempoTec Variations V1」ですが、音質傾向はデュアル「CS43131」の傾向を反映した非常に素直でニュートラルな印象の音で再生されます。同様のDACチップを搭載した低価格なドングル型オーディオアダプターと比較して味付けなどは無くバランス良く鳴る印象。これは多くのドングルが他製品がスマートフォンからの給電による限られた消費電力で出力を確保するため、よりメリハリを感じやすいチューニングを行う傾向にあるのに対し、自身でバッテリーを持ちコンパクトながら強力な出力を実現した「TempoTec Variations V1」ではそのようなアプローチを行う必要が無く、よりニュートラルバランスのサウンドを実現できているといえるでしょう。また「CS43131」の特徴がより反映されており、ESS系DACと比較し、より自然な色づけでやや丸みのある滑らかな印象があります。

いっぽうでノイズ特性は非常に高く、敏感なIEM製品でも透明度の高いサウンドを実現しています。またLow/Highの2種類のゲインによりシングルエンドで最大123mW×2、バランスで215mW×2の出力により多くのイヤホン、ヘッドホンで安定して駆動させることが可能で音場感も確保されます。ただし、さらに高インピーダンスのヘッドホンの場合、音量を上げると低音域がやや軽くなるため、この辺はアンプやサイズ感とのトレードオフと言えるでしょう。それでも一般的なニーズには十分に対応しており、またラインアウトやSPDIF出力も可能なため、必要に応じて外部アンプを組み合わせるのも良いでしょう。


■ まとめ

というわけで「TempoTec Variations V1」はドングル型アダプターなみのコンパクトさを実現しながら実用的なプレーヤー性能と、HiBy系OSを活用した多様な機能を使いやすいインターフェースでまとめられた非常に手堅いDAP製品だと思いました。
TempoTec Variations V1その「コンパクトすぎる」サイズ感ゆえにタッチスクリーンがやや使いにくかったり、音量調整がボタン操作のためボリュームノブを持つDAPより頻繁にボタンを推す必要があったりという側面はありますが、HiByLink機能を活用したりするなどの対策もあるためさほど困ることはないでしょう。またDAC関連の機能はインターフェースが直感的でまたステータス画面が非常に分かりやすく、こちらをメインに使用しても十分に実用的な印象を受けました。このサイズ感としては結構パワフルな印象もあり、かなり利用範囲は大きい製品だと思いますよ。